大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和44年(オ)147号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を高松高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人泉田一の上告理由第二点について。

上告人は本件係争地の時効取得を主張し、上告人は昭和二〇年一〇月坂本守吉より九三番の一五の山林の贈与を受け、その際本件係争地をその一部として引渡され、爾来平穏公然に占有を続け、且つ占有の始め善意無過失であつたから、昭和三〇年一〇月末に取得時効が完成したと主張する。これに対し、原判決は、上告人が昭和二〇年一〇月坂本守吉から九三番の一五の土地の贈与を受けたことは認められるが、本件係争地には右贈与後も守吉の所有山林が存し、これは上告人に引渡していなかつたものと推認され、従つて上告人としては右引渡を受けなかつた部分が贈与の対象となつていないことは当然知つていたものと推認され、そうすれば、その後上告人方において本件係争地全部の占有を始め爾来その占有を継続して来たことがあつたとしても、その占有の始め悪意であつたといわねばならないから、右占有によつて期間一〇年の取得時効が完成する余地はない旨判示し、上告人の右主張を排斥している。しかし、原判決の右理由は、上告人の右主張を排斥する理由として十分なものとはいえない。原判決は、本件係争地内に、上告人が坂本守吉から贈与引渡を受けた土地部分が存在する旨認定していると解される。すると、その部分について原判示のような占有の始めの悪意の問題は生じ得ないから、原判示のような理由でその部分の取得時効を排斥することはできないところである。その部分について、上告人主張の取得時効の成否が審究せらるべきであり、その結果、取得時効の要件が具備しておれば、その部分について、上告人の取得時効の主張が一部是認せらるべきものである。それに、所有権に基づいて不動産を占有する者についても民法一六二条の適用があることは当裁判所の判例とするところであつて(昭和四〇年(オ)第一二六五号同四二年七月二一日第二小法廷判決、民集二一巻六号一六四三頁参照)、上告人が取得時効を主張する土地が上告人において所有権に基づき占有する土地にあたるとしても、そのことは、上告人主張の取得時効の成否に影響はないのであるし、ことに原判決では、本件係争地内に上告人の所有地九三番の一五の一部の存在することが推認されながら、その具体的範囲の立証がないとして、結局右所有地に関する上告人の所有権確認請求が排斥される結果となつているのであるから、上告人には、自己の所有地についても取得時効を主張する十分な必要と利益が存するものというべきである。なお、本件係争地内の上告人所有地九三番の一五の一部の範囲が原判示のように特定しないからといつて、上告人が九三番の一五にあたるとして贈与引渡を受け占有をはじめた土地部分が特定できないということにならないことは、いうをまたないところである。

以上の次第であるから、前記程度の理由をもつて、上告人の取得時効の主張のすべてを排斥した原判決には、民法一六二条の解釈適用を誤つたか、審理不尽、理由不備の違法があるといわねばならず、論旨は、この点理由がある。原判決は爾余の論点の判断をまつまでもなく破棄を免かれず、さらに審理を尽させるため、本件を原審に差し戻すべきものとする。

よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩田 誠 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 大隅健一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例